TIC | 株式会社東京コンサルティング研究所

サプライチェーン・ガバナンス、知財の統制

昨年末、製鉄大手(以下、当社)がEV車のモーター材料となる鉄鋼製品で自社の特許権を侵害されたとして、総合商社大手に対し東京地裁に提訴した。当社は昨年10月にも自動車メーカ大手と中国鉄鋼大手を同じ鉄鋼製品の特許侵害で訴えている。今回提訴された商社は両社の取引に関与している模様だ。
特許法では特許権を侵害した製品について、製造や使用だけでなく販売に携わった者の責任を認める。当社はサプライチェーンを俯瞰した知財保護に注力する。
訴訟した製品は市場拡大が見込まれるEV車の性能を左右するため、当社は戦略商品と位置づけている。提訴した前述の2社にはそれぞれ200億円の損害賠償を請求しているほか、自動車メーカ大手には対象品を使ったEV車の国内での製造・販売差し止めの仮処分を求めている。
これまでは特許侵害対象品の製造者に対し直接提訴していたが、中国などの海外企業には提訴が効きにくい、またその間に特許侵害された製品が流通し、デファクトスタンダードになる可能性もある。
今回の当社の事例は、サプライチェーンにおいて知財を統制するために使用者である自動車メーカも提訴し、戦略製品の模倣品の流通を即時止血するための特効薬ということであろう。
過日のコラムでESG志向のサプライチェーン・ガバナンス(弊社提唱)として4つ目のサプライチェーンリスクについて言及したが、今回は5つ目のリスクである特許侵害についても、サプライチェーンを俯瞰したガバナンスを効かせる必要がある。EV車等の技術革新が見込まれる製品領域においては知財観点のサプライチェーン・ガバナンスも重要性が増すのである。

竹本 佳弘