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CLOのヴィジョン

2024年4月に成立した物流総合効率化法により、いわゆる「CLO(Chief Logistics Officer)」を選任することが、一定の条件を満たす荷主企業に対して義務化された。日本企業のサプライチェーン体質を強化すること、物流業界を襲う様々な「危機」に対処すること、などが大きな目的だと理解できる。しかし選任されるCLOがその役割を真に発揮するのは容易ではないだろう。
この立法に先立つ2021年、国交省は「物流分野における高度人材の育成・確保に関する調査研究」を発表した。調査の要点は主に ①海外における高等教育の実態(特にオランダとドイツ)、②調査主題に関する日本国内企業の意識と現状、③これら2点に基づく考察、である。注目点は多数あるが、本稿では①と②の間に存在するギャップについて触れたい。
①の調査対象である欧州の教育研究機関が実施しているカリキュラムには、「高度な経営手法としてのSCM」という思想が反映されており、情報工学、統計学、システムモデリングなどから購買管理や倉庫管理など、サプライチェーンの全体プロセス内で活用される多様な知見を取り扱った科目が広範に並ぶ。これらの国々で、SCMはアカデミズムに支えられている。だからこそCLOというポジションの存在にも説得力がある。
 一方で②によれば、日本国内企業の関心はいわゆる「物理的に物を運ぶ」という意味での「物流」に留まっているケースが多いようだ。「より包括的かつ領域横断的で、高度な企業戦略としてのSCM」という概念にまで至っておらず、また「SCMはアカデミックな知見を必要とする専門領域である」という認識も薄いように見受けられる。
このギャップが存在する中で選任された日本のCLOにまず期待したいこと、それは「ロジスティクス/サプライチェーンは高度な専門領域である」という認識を、企業経営者と従業員の双方に浸透させることだ。SCMの概念を練り上げ、社内での価値を説明可能な状態にし、啓蒙し、その地位を相対的に向上させること。CLOの皆様のご検討をお祈りしたい。

角屋 智樹